2015年9月21日月曜日

アグスティン・バリオス作曲「マズルカ・アパシオナータ」

私は今、アグスティン・バリオス(Agustin Barrios)作曲「マズルカ・アパシオナータ(Mazurka Apasionata )」(情熱のマズルカ)を新しく練習しています。バリオスは1885年5月にパラグァイで生れ、中南米各国を転々として暮らし、1944年8月に59歳で亡くなったクラシックギタリストであり、天才作曲家です。しかし、その人物像、生涯は謎めいています。

<アグスティン・バリオス34歳頃>

この曲は1919年(バリオス35歳頃)の作で、曲名の通り、情熱に溢れた、美しい曲です。ギタリストとして現代ヨーロッパの巨匠であるDavid Russell のCD『Music of Barrios』のライナーノートの中で、Richard D. Stover(ギタリストであり、バリオス研究家)はこの曲について「情熱で激しく鼓動するこのマズルカは、バリオスがリオデジャネイロでオペラ歌手と深い恋に落ちた時に書かれたと言われる」と述べています。そのオペラ歌手の名前はMaria Esterです。バリオスによるこの曲の手書き譜には「マリア・エステルの魂のために」と副題が添えられているとの事です。

<ジョン・ウィリアムズ演奏の「マズルカ・アパシオナータ」>

バリオスについて英語で書かれた唯一の伝記本であるRichard D. Stover著『Six Silver Moonbeams ~ The Life and Times of Agustin Barrios Mangore』によれば、バリオスは1916年頃からブラジルに4年間ほど滞在した後、1920年6月19日にウルグアイに戻りました。そして、ウルグアイのモンテビデオにて7月3日にコンサートを行いましたが、そのプログラムのSecond Partの5曲目には「The Soul of Maria Ester (Mazurka Apasionatta)」(もちろん原語はスペイン語)と表示されています(『Six Silver Moonbeams』の56頁;下に添付)。つまり、主タイトルを「マリア・エステルの魂」とし、副タイトルを「情熱のマズルカ」として表示して、この曲を演奏しています。

<Richard D. Stover著『Six Silver Moonbeams ~ The Life and Times of Agustin Barrios Mangore』の56頁 ・・・赤線は筆者が付記>

しかし、その5日後、7月8日に同じ会場で行われた彼のコンサートのプログラムではこの曲は「Mazurka Apasionatta」とのみ記載され、「The Soul of Maria Ester」の言葉は表示されていません。以後、彼のコンサートのプログラムでこの曲に「The Soul of Maria Ester」と表示されることはなく、「Mazurka Apasionatta」とのみ表示されています。しかしながら、この曲が、彼が恋に落ちたMaria Esterのために書かれ、彼女に捧げられたことは間違いありません。

このMaria Esterはどのような女性だったのか? ネット上で検索して調べてみましたが、情報は一切得られず、「リオデジャネイロにいた女性オペラ歌手」という事しか残念ながら分かりません。もちろん、Maria Esterの写真もありません。

<Tariq Harb演奏の「Mazurka Apasionata」>

ついでながら、バリオスが愛した女性はもちろんMaria Esterのみではありません。バリオスの女性関係は活発で、どちらかと言えば奔放だったようです。バリオスは母国、パラグアイを1910年に最初に離れる前に、既にある女性にVirgilioという名前の息子を生ませています。その後、1926年(バリオス41歳頃)には同じくパラグアイで別の女性にNenequitaという名前の娘を生ませています。いずれの女性ともバリオスは結婚はしていません。(『Six Silver Moonbeams』の197頁による)
バリオスにとって生涯の伴侶となるGloria Sebanと1929年(バリオス44歳頃)に知り合うまでは、バリオスの女性遍歴は続いていたようです。このGloria Sebanともバリオスは正式(法的)には結婚していませんが、1944年8月にバリオスがエルサルバドルにて59歳で心不全で客死するまで、Gloriaは事実上の妻としてバリオスと行動を共にしました。

Gloria and Agustin in Bogota, Dec. 1932 by Poran111
<グロリア・セバンとアグスティン・バリオス(47歳)/コロンビアのボゴタにて 1932年12月>

話はちょっとそれましたが、バリオスの曲には技術的にも曲想の面でも難しい曲が多い中でも、この「マズルカ・アパシオナータ」は難曲の一つだと思います。私の技術レベルでこの曲に取り組むのは無謀なチャレンジなのかもしれません。バリオスの「ワルツ第3番」を練習していてもそうでしたが、この曲はもたもた、たどたどしくしか弾けなくても、練習していて楽しいのです。それはこの曲が名曲だからこそなのだと私には思えます。バリオスの曲は楽譜の中のどの部分を切り取っても、一つ一つの和音が綺麗なのです。この情熱的な、バリオスの想いのこもった曲を自分が一通り、まともに弾けるようになるのがいつになるのか、いまだに見通しが立ちませんが、地道に練習を続けようと思います。

☆「マズルカ・アパシオナータ」は多くの一流ギタリストたちが録音しています。私はDavid Russellの演奏も、鈴木大介氏の演奏も好きですが、この曲については中でもJohn Williamsの演奏が一番のお気に入りです。上にJohn WilliamsのYouTube音源を添付します。
また、最近の若手ギタリストの中ではTariq Harbの動画は指使いも良く分かり、参考になります。Tariq Harb(ヨルダン出身のカナダ人)私が聴きに行った2012年12月の「第55回東京国際ギターコンクール」に出場し、第2位になっています。Tariq HarbのYouTube動画も上に添付します。

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