2012年2月25日土曜日

『ぼくはお金を使わずに生きることにした』マーク・ボイル著


茅野市図書館を通じて、マーク・ボイル著(吉田奈緒子訳)ぼくはお金を使わずに生きることにした』(紀伊國屋書店刊)を借りて、読みました。

「ぼくはお金を使わずに生きることにした」表紙 by Poran111

この本は29歳の若者、マーク・ボイルがイギリスで1年間お金を使わずに生活する実験をした、その体験記です。著者は人間関係を避けて一人で暮らす隠遁者ではなく、エコとか地球環境保護の観点から金無し生活を試みたものです。ですから、彼はお金を使わないとは言っても、自分の友達や仲間とは付き合い、色んな集まりや活動には顔を出し、又、パソコンと携帯電話を持ち、ネットやマスコミにも積極的に情報発信をしました。

不用品交換で入手したトレーラーハウスに彼は住み、太陽光発電パネルをエネルギー源とし、手作りロケットストーブで調理すると言う、半自給自足の生活を営みます。また、化石燃料をできるだけ使わないようにするため、移動手段は自転車です。

彼の体験記を読むと、例えば月1万円の金で生活するような耐乏生活とお金を全く使わない生活とは基本的に違うと言うことが分かります。なぜなら、金無し生活では風邪をひいても薬を買うことも医者に掛かることもできず、又、緊急の用事があってもバスにも電車にも乗れません。現代社会とかかわりを持ちながら金無し生活を送ることは非常に困難ですし、厳密にいえば色々な矛盾を生じます。

しかしながら、特に2008年のリーマンショック以来、世界中がグローバルなマネーに翻弄されている時代においては彼が唱え、試みるfreeconomy(銭無し経済)は新鮮であり、又、興味深いものです。freeconomy(銭無し経済)は市場経済、あるいは大量消費経済に対するアンチテーゼとも言えるでしょう。

現代の社会とかかわりを持ちながら、短期間ならともかく、金無し生活を10年も20年も続けて行くことは現実には困難と私には思えます。しかし、彼の金無し生活の実験は、お金を中心に動いて行く現代社会に対する問題提起であり、疑問を投げ掛けていると言う点で意味があるでしょう。


薪ストーブ/お金を使わずに生きることにした by Poran111

ところで、彼は第15章「カネなし生活1年の教え」の中で次のように述べています。
「・・・ 僕の1年は、ある意味では困難の日々だったが、見方を変えれば、これまでの人生で一番幸福な時であった。人生とはつねに「完全」なものではないこと、この社会で当然視されている事物のすべてが、かならずしも神の与えたもうた権利ではないことを、ぼくは実験を通して受け入れるようになった。人生はいつだってなるようにしかならない、完全に不完全なものなのだ。この事実に身をゆだねてしまったあとは、カネなし生活につきもののちょっとしたやっかいごとや不便さを受け入れるのが、楽しみに変わった。 ・・・」
彼のこの考えは、私が退職後、年金生活を通じて感じていることとちょっと近いものがあります
freeconomy(銭無し経済)の主張や行動様式は、普通の人には到底そのまま真似はできませんが、部分的には賛同できるところは色々あり、私の今の年金生活も創意工夫すれば、もっと楽しみが広がりそうだと言う気になります
また、彼はネット上にfreeconomy コミュニティーのサイト(→http://www.justfortheloveofit.org/)を主宰していて、このサイトには2011年10月末現在で世界160カ国、34,843人が参加したとの事。グローバル化したマネー経済や地球環境汚染の問題などと対比して、freeconomyが人々の興味を引く所があるからだろうと思います

この書物は、彼が金無し生活を1年間実験した時点での体験記ですが、結局彼の金なし生活は2年半以上に及び、2011年7月からは街に戻って、freeconomy(銭無し経済)のコミュニティを立ち上げる準備をしているそうです。この本の印税収入等を信託基金として、最近「カネなし村」の土地を取得できたとの事です。今後どのようにこのコミュニティが発展するのか興味深いところです。

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